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AKIMOTO
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文学作品の冒頭文読解（冒頭推釈）と期末テスト成績の相関にかかる試論
梅光学院大学高等教育開発研究所紀要 (第4号) 1 - 17 2020年11月30日
Эссе о взаимосвязи между пониманием чтения литературного произведения (Введение) и окончательными результатами тестирования
An essay on the Correlation between the Reading Comprehension of a Literary Work（Introduction）and the Final Test Results
領域：読者反応論、日本語教育、受容論、ロシアフォルマリズム、テクスト理論、能動的読書、第三の意味
抄録
梅光学院大学文学部の2019年度授業（世界の文学 ロシア文学）において、作品の冒頭文（第１段落）を学生が読み、作品全体を推測し、仮受容・仮解釈するという手法を実践した。以下、この読書行為または授業法を「冒頭推釈」と呼ぶこととしたい。当初、冒頭推釈によって作品全体（コンテクストや規範・コードに影響されにくいあらすじ等）を推測する度合・頻度（正答率）を考察する目論見であった。しかし、実際の回答は定性・定量両面においてブレ幅が著しく大きく、採点者による評価も主観的で安定さに欠くことから正答率の考察を断念した。しかし一方で、冒頭推釈した学生群と冒頭推釈できなかった学生群との間で、期末テストに成績差が生じている傾向が炙り出されてきた。この相関が認められれば、冒頭推釈という手法の授業への導入を通じて、読解力の向上を軸に学修能力・成果全体の底上げにつながる可能性があると思い、本稿にて論じることとした。
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書店において本を物色する時、まず題名、著者名、内容紹介等がわかる。店頭にて、冒頭末尾の数頁を読み、購入を決める読者も少なくないであろう。その時、文芸文、論説文に関わらず、テクストの一部を読み、作品全体がどのようなものであるかを推測しながら読んでいる。また、大学入試問題（国語・英語長文）を精読（遅読）していては時間切れとなることから、受験生はある程度内容を推測しながら読解を進めている。あるいは、外国語会話の際、販売計画等話題のジャンル・範囲が囲い込まれていれば、コミュニケーションは比較的とりやすい。なぜなら、相互に既知の文脈の中で、次に何を相手が言ってくるかをある程度推測できるからである。しかし、顧客のご自宅に招待され、小さな子どもさん達が登場すると安穏としてはいられない。幼児言葉が難解であるのに加え、何を言い始めるか全く見当がつかないからだ。
テクストの一部を読み、全体を推測し、仮受容・仮解釈できる場合があるのは、テクストの一部であっても、テクスト全体あるいはテクスト広範に通底する対立基[1]を内包している場合が多いからである。ロシアフォルマリストの１人ボリス・トマシェフスキーは、1925年には既に「文学理論」[2]において、行動主体は様々なモチーフ（対立基）を束ね、読書行為の負担を軽減する機能を持つことを指摘している。本稿にて冒頭推釈の対象としたチェーホフ短編「犬を連れた奥さん」第１段落においても、早々に主人公「グーロフ」と「犬を連れた奥さん」が登場している。冒頭箇所に行動主体が登場するだけで、冒頭推釈は容易になる傾向に振れていく。
これまでボルフガング・イーザーらによる受容論を起点に、多様な読書行為論や読者反応論が論じられてきた。米国ロバート・スコールズは、読書行為という着座点から倫理的解釈の妥当性を主張し、テクスト理論の一極端となったジャック・デリダの脱構築に異を唱え始めている。本邦では、山元隆春が読者とテクストの相互作用を中心に読者反応理論の構築と実践を積み重ねている。一方、稿者はテクスト理論の先駆となったロシアフォルマリズム[3]由来の二項対立（対立基）を起点に受容論を考察し、テクストの網羅的な分析を進めている。しかし、テクストが意味を持ち始める（テクストという器に意味を流し込む）には、読者による転位・転写[4]という読書行為が不可欠だと確信している。
全体的に、19世紀以前の作者中心的な受容・解釈から、ロラン・バルトの「作者は死んだ」宣言（1967年）に代表されるようなテクスト中心的受容・解釈を経て、読者中心的な受容・解釈の比重が高まりつつあるように見える。読者の地位が徐々に向上しているとも言える。現在ネット小説にゲーム機能が付加され、読者があらすじ（ストーリー展開）を選択しながら読み進める小説（ハイパーテクスト）が一角を占めるようになったのも、読者地位向上の傾向に呼応した現象の一つであろう。
読者は、テクストと対話する静謐な空間で、転位・転写という読書行為を行う。その時、読者はテクストから一方的に受容しているのではなく、自ら大量のシナプスをテクスト（という器）に向かって放ち、自己都合に合うよう対立基の取捨選別を行いながら意味形成を図っている。その具体的な実相は、本稿「�� 学生による冒頭推釈の結果」に付記した。読者が意味形成に向かう行為は、超意味相（名詞相）[5][6]に向かう時と同様に、恐ろしいほど主体的・自発的なものである。ロラン・バルトはそれを情報のレベルでも象徴のレベルでもない「第三の意味」（意味の形成性）と名づけた。
超意味相(名詞相）については、これまで学会会員・学生等と議論を都度重ねてきた。そして、超意味相（名詞相）は、受容相[4][5][6]（辞書レベルの意味）を攪拌し、転位・転写を促進し、解釈相[4][5][6]（象徴のレベル）を暗示するという仮説に至っている。具体的に暗示できれば転位・転写による解釈（読み替え）が行われる。具体的に暗示できない場合は、時に「雰囲気」「余韻」「詩性」「意味の形成性」「第三の意味」等と呼ばれる説明できない領域（超意味）に向かう。
冒頭推釈は、冒頭部分の限られた対立基から作品全体を推測し、その後、または同時に、転位・転写という読者の純粋に主体的・自発的な読書行為を前提としていることから、期末テスト成績との相関が生じているというのが本稿の主題である。
