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［20241009］近所の公園、墨絵になっていた。ここで金田さんと偶然出会った。京都、北海道、フィンランドまで行かなくても、身近に「こんな感じ」がある。（「フォトエッセイ�祇臑罅廚茲衄歓茵法�20240928］タクシーで、北大水産学部方面に向かった。運転手の原田さん。10分ぐらいで目的地に着いた。みなと食堂。青い暖簾がかかっていた。車が2台停まっていた。静かに、穏やかに、控えめに佇んでいた。からあげ定食。柔らかい。優しい香り、味。もも肉。冷凍物ではない。弾力。ジューシー。ボリューミー。丁度良いキツネ色。油切れも良い。良い後味。only oneの逸品。ボクのミシュラン味。ふいに、ボクの隣にナナコ。ナナコも美味しそうに食べている。ナナコ、来てくれて有難う。窓側のお客さんは、さすがに食べ切れない様子。パックに入れ、持ち帰る。ホント美味しいわね、フライドチキンにも似てるわね。うん、こういうの初めて、福澤さんの言ってた通りonly one。えー、全部食べちゃった、でもこの値段では申し訳無いわ。ご飯とみそ汁も何かいいね、また来ようね。定食の真ん中に沢庵の黄色。片喰（かたばみ）の花のよう。鮮やかで逞しい。BGMはテレビの独り言。何処にでもありそうな定食屋さん。しかし、この味は特別。ここにしか無い。効率とは無縁の鋼の意志、そのようなものがある。お手洗いに行った。小さな窓にレースのカーテン。窓はステッカーで彩色されていた。曇天の薄明りに透けている。淡い色とパターンが浮かび上がっている。まるで、ステンドグラスの原板のよう。会計をした。遠方より訪ねてきたと女将さんに言った。厨房からご主人も出てきた。お互いの顔を見合わせながら、また来てください、と微笑んでくれた。店の前は大野国道。曇天。コンビニ。パチンコ。街路樹。そろそろ来るんじゃない。うん、原田さんが来るよ。指名したの？。うん、良さそうな人だったから、車も清潔だったし。そうね、安心ね。暑くなくて良かった。昨日は酷暑だったみたいよ。一雨来そうだね。何気ない会話。特別な時間。二度と無い。雨が、ぽつりぽつりと落ちてきた（椎名麟三「邂逅」の最終行、チェーホフ「決闘」の最終行Стал нвкрапывать дождь.）。解釈上明らかに無駄で余分な空間表象。しかし、これが読者を惹きつけ、物語全体を超意味に向かわせる。濡れたアスファルト。草いきれのような匂い。夏。大野国道。曇天。コンビニ。パチンコ。街路樹。住所は港町。すぐ向こうはフェリーターミナル。かつての国鉄青函連絡船。津軽海峡は風の道。しばしば荒れ狂う。大型船でも木の葉のように舞う。それでもスクリューを回す。舵を切る。洞爺丸事故もあった。みなと食堂は、一見、静かに、穏やかに、控えめに佇む。しかし、きっと、語り尽くせないストーリーの数々が交差し、渦巻いていることだろう。そうでなければあの味は出せない。それは、AIで職人技を再現する、という流行りのママゴトとは全く異質な何ものかである。（「フォトエッセイ�� 足利 仙台 君津 函館」より抜粋 ）［20240917］たじまは、郊外の住宅地の中。静かなところ。ナナコ兄弟の行きつけだ。周辺住宅の外壁、灯油タンクの塗装、その佇まいから寒暖差の大きさが分かる。突き出しは、大沼のジュンサイ。駒ヶ岳、大沼の風景、ジュンサイ採りの大桶が見えてくる。ヒタヒタ、ピチャピチャという水音も聞こえてくる。小ぶりで適度な歯ごたえとぬめり。淡水の植物なのに、臭みが全く無い。無菌室で栽培されたような不思議な食べ物。ぼんやりした遠い引出しから、宮沢賢治。QT
日ざしがほのかに降ってくれば またうらぶれの風も吹く にはとこやぶのうしろから二人のおんながのぼって来る けらを着 粗い縄をまとひ 萱草（かんぞう）の花のやうにわらひながら ゆっくりふたりがすすんでくる その蓋（ふた）のついた小さな手桶は 今日ははたけへのみ水を入れて来たのだ 日でない日は青いつるつるの蓴菜（じゅんさい）を入れ 欠けた朱塗りの椀（わん）をうかべて 朝の爽（さわ）やかなうちに町へ売りにも来たりする 鍬（くわ）を二挺ただしくけらにしばりつけているので 曠原の淑女よ あなたがたはウクライナの 舞手（まいて）のやうに見える ……風よたのしいおまえのことばを もっとはっきりこの人たちにきこえるやうに云ってくれ…… UNQ 賢治最愛の妹、とし子臨終時の詩。とし子のお碗にジュンサイ模様。この作品は、コンパクトに引用しようとしても切れない。鉄骨とワイヤーで構成されているような詩。度を越えている。QT けふのうちに とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ （あめゆじゆとてちてけんじや） うすあかくいつそう陰惨な雲から みぞれはびちよびちよふつてくる （あめゆじゆとてちてけんじや） 青い蓴菜のもやうのついた これらふたつのかけた陶椀に おまへがたべるあめゆきをとらうとして わたくしはまがつたてつぱうだまのやうに このくらいみぞれのなかに飛びだした （あめゆじゆとてちてけんじや） 蒼鉛いろの暗い雲から みぞれはびちよびちよ沈んでくる ああとし子 死ぬといふいまごろになつて わたくしをいつしやうあかるくするために こんなさつぱりした雪のひとわんを おまへはわたくしにたのんだのだ ありがたうわたくしのけなげないもうとよ わたくしもまつすぐにすすんでいくから （あめゆじゆとてちてけんじや） はげしいはげしい熱やあへぎのあひだから おまへはわたくしにたのんだのだ 銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいのそらからおちた雪のさいごのひとわんを…… ……ふたきれのみかげせきざいに みぞれはさびしくたまつてゐる わたくしはそのうへにあぶなくたち 雪と水とのまつしろな二相系をたもち すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから わたくしのやさしいいもうとの さいごのたべものをもらつていかう わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ みなれたちやわんのこの藍のもやうにも もうけふおまへはわかれてしまふ （＊Ora Orade Shitori egumo） ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ あああのとざされた病室の くらいびやうぶやかやのなかに やさしくあをじろく燃えてゐる わたくしのけなげないもうとよ この雪はどこをえらばうにも あんまりどこもまつしろなのだ あんなおそろしいみだれたそらから このうつくしい雪がきたのだ （うまれでくるたて こんどはこたにわりやのごとばかりで くるしまなあよにうまれてくる） おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる どうかこれが天上のアイスクリームになつて おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ UNQ （あめゆじゆとてちてけんじや）が、4回繰り返される。祈りのような同語反復。それは、AIを苛立たせ、狂わせる言語表現。賢治作品は、底抜けに深い。鉱物的、無機的である一方、情愛に満ちている。「あんなおそろしいみだれたそらから このうつくしい雪がきたのだ」。漆黒の恐ろしい宇宙空間。そこに孤独に浮かぶ地球。火山や岩石、有毒ガスの中から、数十億年かけて生まれてきた美しく尊いもの。俗事に通じがちな文字の歴史の中で、賢治のベクトルは真逆に向かい、言語性能を高めているように見える。解釈の領域（つまみ食い的な文学研究）ではあるが、賢治作品は物質と精神の境界を疾走しながら、超意味を吹き出し続ける。世界の文学に類を見ない。（「フォトエッセイ�� 足利 仙台 君津 函館」より抜粋 ）［20240911］裸婦大国、日本。男子の性欲が歪んでいる。嫌らしくもあり、気の毒でもある。［20240902］偶然こんな写真が出てきた。ホテル多賀城。高橋薬局。DOMDOM。車。自転車。人々。活気。戦後間もない雰囲気？。江戸時代が終わってたかだか100年？。ヘアピンカーブを曲がって、我々は今ここにいる。［20240826］2008年夏、サハリン。丘を越えた。突然、巨大な廃墟が見渡す限り広がった。旧王子製紙真岡工場。正直、恐ろしかった。真岡郵便局事件を思い出した。でも、頭の中を整理できる物差しが、ボクにはなかった。大津波を目の前にしたように、唖然と眺め続けるだけだった。［20240819］誰も知らない秘密のルート。誰もいない。何も通らない。下関。雨が降る。靄がかかったりもする。新下関辺りから、10�劼阿蕕ぢ海�。そして小月方面に抜ける。季節になれば彼岸花が美しかったりもする。しかし、とにかく走る。何度も走る。何度も何度も走る。何処へ向かっているのか分からない。知ろうとも思わない。これがボクの滑走路、身の丈に合っている。決して飛び立つことはない。とにかく走る。［20240813］あるクリスマスの日、稚内に向かった。全日空ホテル。乙女の像。樺太まで30km強。真岡郵便局事件。JR宗谷本線の廃線。日本最北のコンビニ、セイコーマート。その時も、今も、色んな思いが湧いてくる。緊張感。国境の街。いつも体のどこかに入れておきたい。
［20240731］週末。アルハンゲリスコエ。どうしてここでシャッターを切ったのだろう。きっと、今こうするだろうことを分かっていたに違いない。「今こうする」とはどういうことだろう。容赦ない時間の激流への無駄な抵抗。20年後を少しばかり想像して、怖くなって、何の役にも立たないハーケンを打ち込んでおきたいだけなのだろう。落書きに似ている。［20240728］レーニンスキー・プロスペクトの桜。ソメイヨシノ。たった一本。冬季の融雪剤で相当弱っている。黒ずんでいる。桜だと気づく人は少ない。ここに植えられた経緯も分からない。決して逞しくはない樹木。でも、春になると、まばらに花を咲かせる。どこかに向かおうとする。［20240725］ゲートを抜けると、藤の強い香り。それが、人々の高揚した気持ちや声と混ざり合う。毎年繰り返される劇場風景。どこか官能的で陳腐化しない。人々は、ここに来て、様々な補助線を引いていく。それぞれの時の流れのガラス板に。（2024年9月18日初版発行予定「フォトエッセイ�径�利」より抜粋）［20240723］雨の夜。走る。液体による浸食が始まっている。様々な思いが湧く。様々な人々の思いと溶け合う感じもする。宇宙の意識なのだろうか。どんなに走っても、どんなに観察しても、報われることはない。泣いても笑っても何も起きない。何も変わらない。意識以外には真空しかない。ひたすら言語化できない思いと超意味語の伴奏。そして念仏に向かう。同語反復に収束していく。俗世の価値観は機能しない。
［20240717］陳腐な画像。中心も周辺もなく、テーマもなく、色の艶やかさもなく、ブルーシートまで見えていたりする。それが好き。画像ではなく、モザイク模様のような同語反復の世界。大人になると忘れたふりをする祈りの景色。浅薄な解釈は必要ない。札樽道。愛する人々がいた。そして自分もいた。フラフラになる。中途半端な栄養ドリンクの後味のように。どこからともなく亡き王女のためのパヴァーヌが聴こえてくる。
［20240501］芸術は、無秩序な現実を、楽譜や光、言葉に見立て、手探りで演奏し続ける。美しい時もあり、醜い時もある。そして、世界を構成する素粒子、ダークマターやエネルギーは、認知、意識、自我に向かい、宇宙のあちらこちらの星々で、気の遠くなるほど恐ろしいミクロな試行錯誤を繰り返しながら、絶対座標のない空間を、薄い煙のようにたゆたっている。
そんな煙の中から、最終審を経て、地上に生まれてくる。執行猶予の長い者もいれば短い者もいる。猶予期間中、性能に限界のある五感センサーを与えられる。原始的なセンサーである。それらを駆使しながら、対象物と向き合ったり、欲を満たしたり、満たせなかったり、苦痛に耐えたりする。その間、罪を犯さない者はいない。刑は例外なく執行される。執行後、しばらくは青白く放電しながら、また煙の中に混ざり込んでいく。
猶予期間中、芸術は、魚類や両生類、爬虫類時代の脳野で対象物と向き合う。それは、フェルメールの絵のような肌触りの次元空間である。超意味と言われる場でもある。そこでは解釈はほぼ機能しない。善悪や損得に紐付いていく解釈との交点や接点はない。そこに意識の源泉がある。個体によって、それが見えたり、見えなかったりする。
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